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福岡高等裁判所 平成4年(う)398号 判決

主文

原判決中、被告人両名に関する部分を破棄する。

被告人Kを懲役二年に、同Nを懲役六月にそれぞれ処する。

この裁判確定の日から被告人Kにつき三年間、同Nにつき二年間それぞれ右刑の執行を猶予する。

被告人Kから金六二六万七〇〇〇円を追徴する。

理由

被告人Kについての控訴の趣意は、弁護人石田啓、同春山九州男連名提出の控訴趣意書に、被告人Nについての控訴の趣意は、弁護人國武格、同黒木和彰連名提出の控訴趣意書に、これらに対する答弁は、検察官大栗敬隆提出の各答弁書に、それぞれ記載されているとおりであるから、これらを引用する。

被告人両名の控訴趣意中、法令の適用の誤りの論旨について

所論は、要するに、「原判決は、被告人Nが原審相被告人M及び同Tと共謀のうえ、ゴルフ場建設に関して職務権限を有していた被告人Kに対して、従来からの好意ある取扱を受けたことに対する謝礼並びに今後も好意ある取扱を受けたいとの趣旨の下に、また、被告人Kは右趣旨であることを知りながら、同被告人所有の福岡県鞍手郡宮田町大字龍徳字奥百合野二三番七所在の土地建物(土地面積三三七平方メートル)(以下、「本件不動産」という)について、A社との間で一二〇〇万円の売買契約を締結し、被告人Nが被告人Kに対し、平成二年一〇月二日ころ、五〇〇万円を、同年一一月一五日ころ、七〇〇万円を売買代金として交付し、もって、被告人Kは、その職務権限に関して現金合計一二〇〇万円の賄賂を収受し、被告人Nは同額の賄賂を供与したとして、本件不動産の売買代金一二〇〇万円全額を賄賂と認定しているが、賄賂額は一二〇〇万円と本件不動産の時価との差額と解すべきであるから、右は刑法一九七条にいう賄賂の解釈を誤ったもので、これが判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、その破棄を求める。」というのである。

そこで、原審記録を調査し、当審における事実取調べの結果をも参酌して検討を加える。

関係証拠によれば、次の事実が認められる。

1  被告人Nが株式会社キャピタルエンタープライス(以下、「キャピタル」という)の代表取締役Sとともに、宮田町の貝島炭礦跡地と、これに隣接する小竹町所在のF社の所有地を併せれば、ゴルフ場用地の適地となると考え、この話を持ち出したことから、同地にミッションバレーゴルフ場(以下、「本件ゴルフ場」という)を開発、経営する目的でA社が設立され、同社はその用地取得、開発許認可取得の支援等を日本鋼管工事株式会社(以下、「鋼管工事」という)に業務委託したが、右の経緯から鋼管工事はキャピタルのSにこの用地取得等の業務を再委託し、Sは更に被告人Nにこの業務を委託した。かくして、被告人Nは、鋼管工事の本件ゴルフ場建設準備室員である、原審相被告人Mとともに、その用地買収及びゴルフ場建設に関して、地権者など利害関係者の同意の取り付け、売買契約締結等の業務に従事することになった。

2  被告人Kは、福岡県鞍手郡小竹町総務企画課長として、上司の命を受け、同町の行う土地の取得及び同町の所有する土地の管理処分に関する事務並びに都市計画の総合調整及び同町区域内で行われる国土利用計画に関すること、開発行為の総括に関することなどの事務を処理し、所属職員を指揮、監督する職務権限を有していたものである。

本件ゴルフ場開発について必要とされる許認可関係等の事務は、被告人Kの所属する総務企画課の所掌事務であり、また、小竹町では、本件ゴルフ場用地のうちF社の所有地については、これを町有地と交換取得したうえA社に払い下げているものであるが、これも同じく総務企画課の所掌事務であったところ、被告人Kは本件ゴルフ場開設のためその事務処理に努めたばかりでなく、小竹町側の実質上の責任者として水利権者、周辺住民に対する説明会を開催してその同意を積極的に取り付けるなどしたので、A社側では被告人Kの尽力に感謝していた。

3  被告人Kは、昭和六三年三月自宅の土地建物を担保にして労働金庫から融資を受け、本件不動産を六六五万円で競落して取得し、当初賃貸アパートを建築して利殖を計ろうとしたが、金融機関から計画どおりに融資をえられる見込みがないため、これを断念し、その後は本件不動産の売却処分を考えるようになっていたところ、たまたま、A社が、社宅用地や地権者からの用地買収のための代替用地を探していることを知り、同社に本件不動産を買取って貰おうと考え、平成二年四月ころから、機会のある毎に被告人Nに対し、本件不動産の買取を何度も執拗に要請するようになった。被告人Nとしては、本件ゴルフ場開設に関して種々便宜を図って貰っている被告人Kからの要請であることから、そのまま放置することもできず、A社の責任者に被告人Kから右の要請のある旨を伝えたところ、その処理について被告人Nに一任された。

被告人Kから被告人Nに対して、本件不動産を一五〇〇万円で買い取って欲しい旨具体的な売買価格を提示されたが、被告人Nは、本件土地の時価相場は坪当たり七ないし八万円程度のものと考えていたので、難しい旨答えたものの、この被告人Kの要望をA社側に伝え、同社責任者とも協議して、一一〇〇万円で買い受ける旨一旦回答した。しかし、被告人Kから一二〇〇万円の手取り額が是非とも必要である旨重ねて要望されて、被告人Nは、原審相被告人M、A社の代表取締役である原審相被告人Tらと協議のうえ、被告人Kがこれまで本件ゴルフ場建設に関しA社に対して好意ある取計いをしたことに対する謝礼や将来も同様に好意ある取計らいを受けたいとの趣旨で、本件不動産を一二〇〇万円で購入することを決定した。

4  かくして、同年八月中旬ころ、A社は被告人Nを介して、被告人Kから本件不動産を代金一二〇〇万円で買い受ける旨の契約を締結したうえ、同社代表取締役Tが被告人Kに対し、同年一〇月二日ころ福岡県飯塚市内のレストラン「シャトーブリアン」において、被告人Nを介して右売買代金の内金名下に現金五〇〇万円を交付し、更に、同年一一月一五日ころ福岡県鞍手郡宮田町所在の当時の被告人Tの自宅において、被告人N及びMを介して右売買代金の残金名下に現金七〇〇万円を交付した。

以上の事実関係によれば、A社は、被告人Kの要請に基づき、特に必要とはしなかった本件不動産を時価相場よりも高い価格という認識を持ちながらも、被告人Kの職務に関して有利な取り計らいを受けたことに対する謝礼の趣旨及び今後も同様の取り計らいを受けたいとの趣旨で購入したものと認められる。

所論は、そもそも賄賂とは、職務行為との対価的関連性を有する不法の利益の部分に限られるのであるから、仮に、私人が、職務上便宜の取扱を受けたことに対する報酬の趣旨で、公務員の利益を図るため、その公務員から当面必要としない不動産を購入してやったとしても、売買としての対価関係の存在自体は否定できない以上、代金全額が賄賂に当たると認定するのは不当である、というのである。

たしかに、公務員が所有する不動産を私人が購入したとしても、それのみでは、私的自治の原則からなんら違法の問題を生ずる余地はない。しかし、私人が、公務員の職務上の便宜な取扱に対する報酬の趣旨で、その公務員の利益を図るためその所有不動産を購入した場合には、たとえ時価相当額で購入したとしても、当該不動産を現金化できたこと、すなわち換価の利益を賄賂として与えたものというべきである。なんとなれば、賄賂とは、公務員の職務に対する不法な報酬としての利益であり、したがって、財産上の利益に限られるものでなく、およそ人の需要、欲望を満たすものであれば足り、必ずしも経済的に一定の価額を有することを要しないからである。

本件においては、被告人Kは、希望どおり本件不動産を現金化することができたという利益をえた他に、その時価相当額を超える代金で買い取って貰うことにより、売買代金額と時価相当額との差額を経済的利益として取得しているのである。すなわち、本件不動産を売却して換金できたという利益(経済的利益ではあるが価額の算定は不能である)及び売買代金一二〇〇万円と本件不動産の価額との差額を利得した利益が本件の賄賂というべきである。しかし、右のうち、本件不動産を売却換金できたという利益は、本件訴因として起訴されていないので、罪となるべき事実として認定することはできない。

なお、検察官は、本件不動産の売買契約は、賄賂授受の隠れ蓑としてなされたものであって、本件賄賂は現金一二〇〇万円そのものである旨主張する。しかし、本件売買契約をするに至った動機はともかく、本件不動産は相当の価額を有するものであり、また、当事者間にこれを売買する意思が存したことは明らかであるから、売買契約が仮装のものということはできない。したがって、これを無視して、あたかも現金一二〇〇万円が対価なしに支払われた場合と同一視するのは相当でなく、検察官の主張は採用できない。

以上のとおりであるから、本件賄賂は、当事者間で授受された現金一二〇〇万円と本件不動産の価額との差額と解すべきこととなる。そこで、本件の売買契約締結当時の本件不動産の価額について考察する。

関係証拠によれば、本件不動産は、昭和六三年三月に被告人Kが六六五万円で競落して取得していたものであるが、不動産鑑定士宮内紀明作成の鑑定評価書によれば、本件売買契約がなされた時点における本件不動産の価格は土地建物合計七二三万三〇〇〇円と評価されるというのである。同鑑定評価は、本件不動産のうち土地の価格を、一平方米単価二万〇三〇〇円(坪単価六万六九九〇円)と評価しているものであって、被告人Nが時価相場と考えていた、坪当たり七ないし八万円とも大きな隔たりはなく、その他関係証拠に照らしても概ね妥当な評価額と認められる。

なお、所論は、右鑑定評価書は、トヨタの進出に伴う宮田町における地価上昇を考慮していない点において、妥当性を欠いている旨主張する。しかし、同鑑定評価書は、過去一年間の地価上昇率が6.3パーセントであるとして、平成三年度の県地価公示の基準地に新規に加えられた、基準地番号「宮田(県)―4」の奥百合野一三三番六七の土地の地価をも参考にして、本件土地の価格を算定しているのであるから、地価上昇を考慮していないというのは当たらない。もっとも、同鑑定評価書中(六頁)には、「地域の変化に伴う変動率及び要因」として「宮田市街地及びその周辺、直方市市街地は、トヨタ進出による期待性等により、地価が上昇したが、両市街地の郊外に当たり、利便性で劣る当地区周辺は団地内に空地も見られ、地価はわずかな上昇に止まっている」旨の記載があるけれども、当審において取り調べた大和不動産鑑定株式会社作成の「昭和四六年から平成四年の福岡県下地価公示基準地公示価格、県基準地標準価格」(抜粋)によれば、同じ宮田町内においても、工場団地等は平成元年ころから急激な地価上昇を示しているのに対して、それ以外の一般住宅地は比較的僅かな上昇に止まっていることが明らかであるから、本件売買の成立時期が平成二年八月ころであることをも考慮に入れると、同鑑定評価書の地価評価が手法的に誤りを犯していて、その結論が妥当性を欠いているということはできない。その他関係証拠を精査しても、右鑑定評価書の価格評価が客観性を欠いていることを窺わせる点は見当たらない(所論は、宮田町長作成の平成四年三月一六日付捜査関係事項照会回答書を指摘するが、これは固定資産税課税台帳兼名寄帳の記載内容を回答したものであって、課税標準額を示すに止まるものであるばかりでなく、本件不動産の評価額の次の欄に記載された、上昇率一一〇倍の記載が如何なる意味を有するものか明らかでないから、右認定を左右するものではない)。

また、被告人Nは、A社側から、被告人Kの本件不動産買い取り要求の処理を一任されて、最初同被告人に対し代金一一〇〇万円で購入する旨申し入れているものであるが、被告人Nとしては、本件不動産の価格は坪当たり七ないし八万円程度と考えていたものの、被告人Kの要望にもできる限り副うべく配慮を加えてもせいぜい坪当たり一〇万円として一一〇〇万円であるとして、この価格を持ち出したものと認められ、したがって、この価格は、被告人Kに対する職務上便宜な取扱を受けたことなどに対する謝礼の趣旨をも含めて、時価相場より高い価格による買い受け申し入れをしたものというべきであるから、所論のように、この一一〇〇万円が本件不動産の客観性のある妥当な価格であるということは到底できない。

以上のとおりであるから、本件の賄賂額は売買代金一二〇〇万円と本件不動産の時価合計額七二三万三〇〇〇円との差額である四七六万七〇〇〇円と認めるべきこととなる。

本件賄賂の額は四七六万七〇〇〇円と認めるべきであるから、これと結論を異にする原判決は法令の適用を誤った違法があり、これが判決に影響を及ぼすことは明らかであるから、被告人Nの控訴趣意中の量刑不当の論旨について判断するまでもなく、破棄を免れない。論旨は理由がある。

よって、刑事訴訟法三九七条一項、三八〇条により原判決中、被告人両名に関する部分を破棄することとし、同法四〇〇条但書にしたがい、更に判決する。

(罪となるべき事実)

被告人Kは、福岡県鞍手郡小竹町総務企画課長として、上司の命を受け同町の行う土地の取得及び同町の所有する土地の管理処分に関する事務並びに同町区域内で行われる開発行為の総括に関する事務などを処理する職務権限を有していたもの、被告人Nは、かねてからゴルフ場等の開発を手がけ、右小竹町区域内等におけるミッションバレーゴルフ場の開発に着目していたもので、同ゴルフ場の開発、経営を目的として設立されたA社(代表取締役T)から、同ゴルフ場建設用地の買収及びゴルフ場建設に関する利害関係者らからの同意の取り付け等の業務を委託された日本鋼管工事株式会社から右業務を再委託された株式会社キャピタルエンタープライスから、更に同業務の委託を受けて、右日本鋼管工事株式会社のミッションバレーゴルフ場建設準備室員として同社の前記委託業務の遂行に当たっていたMとともに、利害関係者からの同意の取り付け、用地買収等に従事していたものであるが、

第一  被告人Kは、

一 A社が、小竹町区域内等において右ミッションバレーゴルフ場を建設するにあたり、同町区域内にある同ゴルフ場建設予定地のF社所有地を小竹町が同町所有地と交換し取得し、これをA社に払下げる手続を同被告人が積極的に推進するなどの好意ある取計いをしたことに対する謝礼の趣旨及び将来も同被告人が積極的に推進するなどの好意ある取計らいを受けたいとの趣旨の下に締結されるものであることを知りながら、平成二年八月中旬ころ、同町大字勝野三三四九番地所在の同町役場内において、被告人Nを介し、A社との間で、自己の所有する同郡宮田町大字龍徳字奥百合野二三番七所在の土地建物(時価合計七二三万三〇〇〇円)を右時価をはるかに超える一二〇〇万円で同社に売却する旨の契約を締結したうえ、右Tから、同年一〇月二日ころ、同県飯塚市大字中三二二番地の二所在のレストラン「シャトーブリアン」において、被告人Nを介して右売買代金の内金名下に現金五〇〇万円の交付を受け、更に、同年一一月一五日ころ、同県鞍手郡宮田町大字龍徳七番地の一二の当時の被告人Kの自宅において、被告人N及びMを介して右売買代金の残金名下に現金七〇〇万円の交付を受け、もって、被告人Kの前記職務に関し、右土地建物の時価相当額との差額である四七六万七〇〇〇円の供与を受けて賄賂を収受し、

二 Dと共謀のうえ、同年一二月二九日ころ、同郡小竹町大字勝野四〇五四番地の一所在のD方において、右Tから、小竹町が前記のとおりF社所有地を同町所有地と交換し、これをA社に払い下げるに際し、同町議会に付議される右土地交換に関する議案及び右土地払い下げ処分に関する議案等の審議を行うに当たり、同町議会議長として同町議会に付議される議案の審議、議決のため、他の議員に対して発言、表決についての意見交換、調整を行うなどの職務権限を有していたDが他の同町議会議員に対して同議案に賛成するよう働きかけるなどの好意ある取計らいをしたことに対する謝礼の趣旨及び将来もDから同様に好意ある取計らいを受けたいとの趣旨の下に供与されるものであることを知りながら、現金三〇〇万円の供与を受け、もって、Dの前記職務に関して賄賂を収受し、

第二  被告人Nは、右T及びMと共謀のうえ、前記第一の一記載の趣旨の下に、同年八月中旬ころ、前記小竹町役場内において、被告人Nを介して、A社と被告人Kとの間に同記載の売買契約を締結したうえ、同被告人に対し、同年一〇月二日ころ、前記レストラン「シャトーブリアン」において、被告人Nが右売買代金の内金名下に現金五〇〇万円を交付し、更に、同年一一月一五日ころ、前記の当時の被告人Kの自宅において、被告人N及びMが右売買代金の残金名下に現金七〇〇万円を交付し、もって、被告人Kの前記職務に関し、前記土地建物の時価合計額との差額である四七六万七〇〇〇円を供与して賄賂を供与し、

たものである。

(証拠の標目)〈省略〉

(法令の適用)

被告人Kの判示第一の各所為は、いずれも刑法一九七条一項前段(判示第一の二の所為については更に同法六五条一項、六〇条)に該当するが、以上は同法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により、犯情の重い判示第一の一の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で、被告人Kを懲役二年に処し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右の刑の執行を猶予することとし、判示第一の各犯行により被告人Kが収受した賄賂はいずれも没収することができないので、同法一九七条の五後段によりその価額(判示第一の二の犯行により同被告人が分配取得した賄賂の価額は一五〇万円と認められる。)合計六二六万七〇〇〇円を同被告人から追徴することとする。

被告人Nの判示第二の所為は、行為時においては同法六〇条、平成三年法律第三一号による改正前の刑法一九八条、罰金等臨時措置法三条一項一号に、裁判時においては刑法六〇条、右改正後の刑法一九八条にそれぞれ該当するが、右は犯罪後の法令により刑の変更があったときに当たるから、刑法六条、一〇条により軽い行為時法の刑によることとし、所定刑中懲役刑を選択し、その所定刑期の範囲内で被告人Nを懲役六月に処し、なお情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から二年間右の刑の執行を猶予することとする。

(量刑の理由)

本件は、福岡県鞍手郡小竹町等におけるゴルフ場開発をめぐり、同町関係者と開発業者との間で生じた一連の贈収賄事件の一つである。

被告人Kは、小竹町の総務企画課長として、その大きな権限に相応した責任を認識し、慎重かつ自制的な行動が期待されていたにも拘らず、派手な生活による多額の借金の返済に窮していたところ、たまたま、同町内でゴルフ場開発事業が進められており、自己が行政側の実質的な責任者としてこれに関与していたことを利用して、開発業者に執拗に迫って、自己の所有不動産を高値で買取らせたうえ、同町議会議長であったDがその地位を利用して開発業者から現金を収賄した事件にも積極的に関与して分け前をえる犯行に及んだもので、町政に対する町民の信頼を著しく損ない、地方自治の根幹を揺るがしかねない甚だ悪質なものであって、その責任は重大である。しかし、同被告人は、犯行発覚後は事実の大要を認め、公判廷でも今後二度とかかる犯罪を繰返さない旨誓うほか、犯行後就任した小竹町助役の職を辞するなど反省の情を示していること、本件の発覚によりその社会的地位、名誉を失い、既に一応の社会的制裁を受けていること、前科前歴のないことなど、有利に斟酌すべき事情も認められるので、これらを考慮した。

また、被告人Nは、A社側で開発業務の実務を担当し、本件不動産の売買にからむ賄賂については、その交渉の過程や現金の交付という実質的な役割を果たしており、その刑責は軽視しがたいものがある。しかしながら、同被告人の関与した贈賄は、もっぱら収賄者である被告人Kから執拗に幾度も要求されて、同被告人所有の不動産を時価よりも高値でA社に買い取らせたことに起因するものであること、被告人Nは、A社からその処理を一任されていたものの、自らの意思のみで決定をする立場にはなく、TらA社の責任者の指示を仰いで行動していたものであること、犯行発覚後は率直に反省の態度を示していること、見るべき前科前歴がないことなど有利に斟酌すべき事情があり、これらを考慮した。

(裁判長裁判官 金澤英一 裁判官 川﨑貞夫 裁判官 長谷川憲一)

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